2011年7月10日日曜日

金融改革なければ税制改革なし

 一部メディアは「社会保障と税の一体改革」と称し、あたかも今回の増税を「税制改革」と混同させる言い方を好んで用いますが、実際には単なる増税に過ぎません。社会保障制度と税の一体改革は単なる消費税の引き上げ時期の論争であり不毛です。

ストックへ課税するかフローへ課税するか

 それよりまず「税制改革」を議論すべきです。国家の歳入をどのように確保すべきかをしっかりと決めるべきです。その争点とすべきは「ストックへ課税するかフローへ課税するか」という点です。フローとは循環するおカネのことで、商品の売買に伴うおカネの移動であり、生み出される付加価値を表します。フローへの課税は、消費税、所得税、法人税などです。現在はフローへの課税が基幹税となっています。一方、ストックとは資産の事で、預金、証券・債券、不動産などです。特に金融資産は「カネからカネを」生み出しますが、財は何も生み出しません。ストックがフローとして利用されて始めて財を生み出します。現在のストックへの課税は、固定資産税、相続税などですが、果たしてこれだけで十分なのでしょうか。

 1995年頃にバブルが崩壊して以来、それまでインフレベースだった日本経済は一転してデフレベースの経済へと大きく反転しました。ところが国の経済ベースが反転したにも関わらず、税の根本的な基盤に対する議論が何もなされていません。これだけ長期のデフレ環境にも関わらず税制はインフレをベースに考えられたままなのです。インフレベースとデフレベースでは通貨の循環の性質が大きく変わります。インフレは通貨膨張であり、デフレは通貨縮小であり、正反対なのです。通貨のある段階に課税する制度である税制に改革が必要なのは当然です。

 税制改革として良く引き合いに出される「直間比率」はどちらもフローへの課税であり、その比率は単なる付け替えなので、あまり意味がありません。こんなものは税制改革ではありません。もっと根本的な改革、つまりフロー・ストックの比率を変える必要があるのです。

財政危機はフローへの課税が原因

 現在の税収の構造は明らかにフローへ偏りすぎています。デフレベースの経済ではフローが減少し、ストックが増加します。そのことが景気を悪化させる原因ともなっています。またデフレではフローが減少するために、フローに依存する税制のままでは税収は減少を続けます。これでは財政再建など夢のまた夢です。財政再建が難しいのは税率が低いからではなく、経済ベースに適した税制を実施していないことが原因です。政府の財政再建策は本末転倒で無意味です。

 ですから、日本がデフレベースの経済を継続している以上、税制はフローではなく、ストックへの課税を中心に組み立てられなければなりません。デフレ環境においてもストックは減りませんので、これに課税すれば常に安定した税収を確保できます。このように税制は現在のようなフロー課税偏重ではなく、経済ベースの変動に応じてストック中心の課税へと柔軟に改革すべきです。

 もちろん、日本の経済ベースをインフレベースに戻すのであれば、インフレベースを前提としている現在の税制を大きく変える必要は無く、税率の変更だけで対処するのは可能だと思います。そのためにはインフレターゲットのような物価の能動的なコントロールに対する政策が不可欠です。インフレベースの税制はインフレ環境でこそ効果的です。そんなことも考慮しない税制議論など馬鹿馬鹿しくて話になりません。

税制は金融政策と一体のもの

 税制は税制だけの問題ではありません。インフレにはインフレに、デフレにはデフレに適した税制がある。インフレかデフレかを決定付けるのはひとえに金融政策です。従って税制は常に経済ベースを決定付ける金融政策と一体であり、「税制と金融政策の一体化」を常に考えないと税制改革は確実に失敗します。金融政策に踏み込まずに税制を議論するなど子供の遊びのようなものです。もちろん金融政策なしに財源を考えるなど論外です。

 最も重要なのは国家全体を総合的に判断する事です。税制だけ、金融政策だけ、財政政策だけというバラバラな縦割り行政そのものの政治では機能しません。各省庁の横断的な統合能力が国家戦略と共に必要なのです。それが本当の政治主導です。