2011年8月14日日曜日

インフレで蘇る日本(2)



インフレとは「需要が供給を上回る状態」です。つまり基本的にインフレ=好景気なのです。景気が回復すれば雇用が増えて失業率は改善し、貧困化や格差の問題が解決されるのです。インフレ政策を悪魔と罵る与謝野や日本銀行は国民の貧困や格差を解決する事よりも、円の価値を最大化し、インフレによる資産の目減りから富裕層の資産を守ることだけを考えていると断じざるを得ません。

インフレとは単に物価が上昇する現象ではない

インフレと言うと、ただ商品の値段があがるだけと考える人が多いようです。しかし、インフレと同時にさまざまな状態が発生します。そもそもインフレになるには世の中のおカネの量が増えると言う現象が先んじて必要になります。おカネが増えないのにインフレになる事は(例外を除いて)ありません。世の中のおカネが増えると、その増えたおカネが国民に分配され、国民の購買力が高まります。すると国民の消費が活発になり、モノがどんどん売れるようになって商品が不足してきます。すると市場のメカニズムによって商品が値上がりします。これがインフレです。ですからインフレの前にはおカネが増えて、国民所得が増えます。

たとえばおカネを増やす最も効果的な方法は、復興国債の日銀引受です。これは日本銀行が現金を発行し、その現金で政府の発行する復興国債を買い入れます。現金が政府にわたり、政府は被災地のインフラ、道路、建物の復旧のためにおカネを使います。このおカネは建設会社の売上げを増やし、その従業員の所得を増やし、小売店の商品の売上げが増加します。するとメーカーの売上げが増え・・・というように、どんどんおカネが回転して財(商品やサービス)の生産を促し、富を生み出します。これが循環するおカネの効果です。おカネが増えると財の生産が増加するため、人々の暮らしは向上します。ただし、おカネの増加は財の生産の増加と同じ程度でなければなりません。財の生産の増加を上回る速度でおカネが増えると、需要だけが増加する事になり、インフレが酷くなってしまいます。しかし現在の日本は20兆円もの生産能力が余っており(=デフレギャップ)、おカネを増やしても生産増がすぐに追いつきます。ですから、その程度のおカネを復興国債として投入したところで、日本の抱える膨大な余剰生産力が動き出し、失業者を吸収して景気が回復するだけで、インフレはほとんど起きません。ところが日本銀行は復興国債の引き受けを断固として拒絶しています。為替介入に使うためのカネは数兆円刷っても、被災地の人々のためにはびた一文刷らんというのです。

経済成長の引き金になるのは常におカネです。まずおカネが国民所得として行き渡ると、消費が増え、その消費に引っ張られて企業は生産を増やし、設備投資も行います。まず先行しておカネを増やす必要があり、先行しておカネが増えれば、消費が先行するために市場においてはインフレ傾向になります。このようなインフレは経済成長に伴って必ず発生しますので、悪いものではなく、むしろ経済成長の証といえるのです。だからこそ先進国の多くはインフレターゲット政策を採用しているのです。

フィリップス曲線の意味を無視する日本銀行

需要が増えるからインフレになる。インフレは好景気の証です。インフレになると雇用も増えます。実際にインフレ率と失業率の関係をグラフ化したものがフィリップス曲線と呼ばれる図表です。インフレ率が高まると、失業率が低下します。これは非常に有名なグラフであるため、日本銀行がこれを知らないなどということは絶対にありません。つまり日本銀行はインフレにすれば失業率が低下する事を知っていながら、インフレターゲット政策を拒否し「ハイパーインフレが起こるぞ、起こるぞ」と言いながらデフレを継続しているのです。つまり日銀は失業率を改善する気がまったく無いのです。日本は毎年3万人の人が自殺しており、経済的な理由での自殺も多いと言います。その原因を作り出しているのが日本銀行です。

アメリカのFRBは、その政策目標に「失業率の最小化」をあげており、その達成の是非がFRBの責任として問われます。ところが日本銀行には失業率に関する目標がありません。そのため、どれほど失業が増えようと責任を取る必要はありません。つまり「好き勝手」なのです。日銀の独立性に守られているために誰も手出しができない。そういう独裁システムなのです。「日銀ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」。

世界の先進国の多くはインフレターゲット政策を採用し、インフレに誘導しています。失業対策と言う視点からもインフレターゲット政策は有効なのですが、日本銀行はこれも徹底的に否定します。

インフレで動き出す貯蓄

資産家にとって、デフレで物価が下落する現状では、おカネを使わずに通貨のままで保有する事が最も有利な選択となります。通貨はインフレさえ無ければ劣化の心配が無い。それどころかデフレで黙っていても通貨の価値が上昇するとなれば誰がリスクを犯しておカネを投資するでしょうか。ところが、もしインフレになれば、だまって貯蓄していても通貨の価値が低下してしまいます。それなら商品や不動産などが値上がりする前に手に入れようとします。また、ただ貯め込むだけではおカネの価値が減ってしまいますから、投資して利息を稼ぐ必要も出てきます。

このように、インフレになるとそれまで貯め込まれるだけだったおカネが、取引に使われ始めるようになります。すると、不動産や株式などの資産価格は値上がりし、企業の財務状況も改善します。すると、企業の投資意欲も向上します。インフレは需要が増加した状態ですから、経済は成長軌道にあり、投資するチャンスとなります。

インフレで財政再建が進む

現在の日本の名目経済成長率はほぼゼロからマイナスです。1990年頃からほとんど変わっていません。失われた20年なのです。こんな状況ですから、税収も伸びるはずはありません。現在の税収のほとんどは循環するおカネ(フロー)に依存するため、名目GDPの伸びがなければ増える事はありません。名目経済成長率の増加は財政再建の最優先課題なのです。ところが政府のプライマリーバランス(財政収支)の試算の前提条件は、名目成長がゼロ+復興増税だそうです。それで「税収が不足する」と威張っています。とんでもない欺瞞です。

名目成長率3%でも税収が不足すると言っておりますが、実は名目成長率4%~5%の数値は公表しません。その成長率であれば、税収増によりプライマリーバランスは黒字化するといいます。多くの人は「20年間もゼロ成長だったのだから、成長率5%なんて無理」と思われるでしょう。しかし名目成長率は世の中に循環するおカネを増やすだけで自動的に増加します。成長戦略など無関係に、機械的に増やすことが可能です。

最も簡単な方法は、復興国債の日銀引受です。現在のGDPは500兆円です。その5%は25兆円です。25兆円の現金を刷って、復興のために使用すれば5%成長になります。おカネを発行して使えば機械的に成長するのです。実に簡単です。実際には乗数効果がありますので、そんなに必要ありません。たとえば、初年度が20兆円、翌年が15兆円、翌々年が10兆円のように逓減させます。その後も名目成長率が5%になるように、日銀が国債を買い取り続ければよいのです。もし被災地の復興需要が本格化すれば、国債に頼る必要はなくなります。名目成長率5%、物価上昇率2%とすれば、実質成長率2.9%です。ここ10年ほどの日本の実質成長率は2%程度ですから、名目成長5%は無茶な数値ではありません。しかし長期的な成長を持続するためには実質成長のための成長戦略も必要でしょう。そして、万一インフレ率を2%以下に抑えるために名目成長を5%以下に下げざるを得なかったとしても、復興国債などで景気が十二分に回復していますから、徐々に消費税率などの税率を上げてゆくことも可能になっているはずです。つまり税収にまったく問題はありません。

むしろ、財務省のゼロ成長を基準とする試算に基づく経済運営を行うなら、「永久に増税を続けなければ財政が破綻する」と言うトンデモナイ結論が導き出せるでしょう。これが与謝野と財務官僚のシナリオなのです。

財の生産力があれば何の心配も無い

インフレとは単に商品の値段の問題であり、商品が不足することではありません。日本の生産力が十分に大きく、物資が十分に豊かにあるのなら、あとは分配の問題に過ぎません。社会制度でいくらでも対応できるのです。しかし、本当に恐ろしいのは生産力の低下による品不足です。人々の必要とする物資が不足すれば、品不足となり、もはやどうすることもできません。これを原因とするインフレは極めて悪性なものになります。

一番危険なのは、このままデフレを放置する事です。デフレにより日本国内での生産力が破壊され、生産力が海外へすべて移ってしまうとどうなるか?日本の生産力はガタガタになります。今は円高なので海外から物資を輸入すれば良いですが、もし円安に振れ始めたら大変な事になります。一刻も早くデフレを解消し、内需を拡大して国内生産力を維持しなければなりません。そのためには、おカネを増やして国民の所得を向上させ、円安に誘導する事が必須なのです。

一刻の猶予もありません、ただちに復興国債20兆円を日銀が引き受けねばなりません。