2013年6月10日月曜日

金融緩和せずに経済回復する方法

アベノミクスの推進する「金融緩和」に関して積極派と反対派で国論を二分する騒ぎになっています。しかし現在、金融緩和に異を唱える野党の多くは単純に「カネを刷るのは良くない、害がある」と言うだけで、有効と思われる代案は何も持ち合わせません。これでは説得力はないと思います。自分はいわゆるリフレ派ですが、金融緩和しなくても別の方法で通貨循環を維持する方法を考えています。状況に応じた「オプションプラン」を考えておくことは意味があると思います。

<なぜ金融緩和するのか>

そもそもなぜ金融緩和するのでしょう。それはおカネの3つの機能のうちの一つ「市場における交換機能」を高めるためにあります。おカネの機能は「価値の尺度」「価値の保存」「財の交換機能」です。このうち、貯蓄は「価値の保存」機能であり、消費は「財の交換」機能です。現在はデフレ状態であり、財(商品やサービス)の交換機能がマヒしていると考えられます。

なぜ財の交換機能がマヒしていると言えるのか?それは、生産設備や労働力があり余る一方で、消費財を十分に手に入れる事のできない人々、貧しい人や失業者が大量に存在するからです。もし、生産設備や労働力が余っているのなら、それを動かして消費財を生産し、それを消費財の不足している人に分配すれば問題は解決します。ところが市場経済のメカニズムではこんな簡単なことができません。生産と分配の間に「おカネ」が介在しているからです。おカネは生産した財を交換するのに有用であると同時に、ボトルネックにもなるのです。

そのボトルネックを引き起こすのがおカネの価値保存の機能、つまり「貯蓄」です。おカネが貯め込まれるばかりで使われないからデフレが解消しない~と聞いたことがあると思いますが、それは真実です。おカネは生産者と消費者の間でぐるぐると循環し、その循環にのって財が生産者から消費者へ届けられます。ですから、もし循環するおカネの量が減ってしまうと、生産者から消費者へ届けられる財の量も減ってしまいます。すると生産した財が余る一方で、財を受け取れない貧困層が発生するという不合理な状況(デフレ)が発生します。モノは潤沢にあるのに、ますしい人が増えるのです。ぐるぐると循環するおカネの一部を貯蓄に回してしまうと、循環するおカネは減ってしまいます。これがデフレの根本的な要因となります。

循環するおカネが減ったなら、これを増やさねば経済はどんどん麻痺してゆきます。そこで金融緩和を行い、循環するおカネの量を増やそうとするのです。循環するおカネを増やせばよい。ならば、金融緩和以外に方法があります。

<金融緩和せず税制改革でもおカネは循環する>

デフレの原因は過剰な貯蓄にあります。人々が貯蓄すればするほど循環するおカネは減少し、経済は麻痺してゆきます。適度な貯蓄は人々にとって必要であり、生活を安定させる機能を有します。しかし、過度な貯蓄は経済を崩壊させかねないのです。ですから、過度な貯蓄に課税し、それを再び循環するおカネに戻せばよいのです。それが「預金課税」です。

たとえば1000万円以上の預金に対して2~3%の課税をします。そうすれば消費税など引き上げる必要はありません。もともと、使われずに貯め込まれているだけのおカネですから、そのおカネに課税しても日本国としての経済的な影響はほとんどないでしょう。もちろん日本人である以上は、海外の口座であろうとドル預金であろうと課税対象となります。タンス預金が増えるとの指摘もありますが、国民にマイナンバー制が導入されると同時に、個人にB/SとP/L(複式簿記)を導入すれば収支が一目瞭然なので、逃げられません(法人と同じ)。もちろん、法人の預金にも課税されます。

このように、貯め込まれて使われていないおカネに課税し、これを財源として政府が社会保障や公共事業を行う事でおカネが再び循環するようになります。逆にデフレの今は、おカネの循環を妨げる消費税は減税します。消費税の増税が必要となるのは、景気が過熱しすぎたとき、つまりインフレです。消費税は消費を抑制する働きがありますから消費過剰のインフレ時には効果的な税制といえるでしょう。デフレの時にはデフレを悪化させます。

とはいえ、日本人は貯蓄の大好きな国民ですから、預金に課税するというのは不評に違いありません。しかし、金融緩和に反対する野党なら、緩和以外の方法論を示すべきです。マクロ的に言って金融緩和以外の方法は、もはや預金に課税するしかないと思われます。にも関わらず金融緩和に異を唱え、一方でマクロ経済の理論に基づく代案を示さない野党はもはや存在価値はないでしょう。

<同じ緩和でも、通貨発行益による「インフレ税」という方法>

野党が自民党と差別化を図りたいと考えるのは自然です。だからと言って「何でも反対」では存在価値ゼロです。そこで、同じ金融緩和路線でありながら、明らかに自民党の方法とは違うやりかたがあります。それが通貨発行益を財源とする財政政策であり、いわゆる「インフレ税」という考えです。

この方法を採用すると、基本的にすべての税を廃止し無税国家となります。そのかわり財源として通貨を発行して利用します。そうすると、国債を発行する必要が無くなりますので、財政赤字の問題はなくなります。同時にすべての税務署が不要になるため、行政のスリム化が可能になります。また現在さまざまに行われている節税対策や租税回避のための無駄な労力や無駄な投資はすべて不要になります。もちろん、脱税犯罪はなくなり、取り締まりの手間もなくなります。しかも、財務省の利権はすべて消えます。

これなら賛成する国民も少なからずいるでしょう。

通貨を毎年毎年発行すると、通常はインフレになります。インフレとして通貨の価値が目減りする分が間接的に「税」となります。これは既発行通貨全体にかかるので、預金を含む、資産課税の一種と考える事ができます。どの程度のインフレになるかは、市場における需要と供給の関係で決まります。実際のところ、経済成長には循環する通貨の膨張が伴うため、経済の潜在成長率や貯蓄による通貨の退蔵量に合わせて通貨供給をコントロールすれば、インフレがそれほど酷くなることはないと思われます。

インフレでも人々の暮らしは決して貧しくなることはありません。供給される財の量が人々の需要をまかなうのに十分であれば、モノが不足することは決してないからです。もし生活が苦しくなるなら、それは物価上昇ではなく通貨の分配に問題があります。なぜなら、物価とは財とおカネの交換比率に過ぎないからです。単純に言えば物価が10倍になっても、所得が10倍になれば何も問題ありません。もし、物価が10倍になって、人々の所得が10倍にならないとしたら、そのぶんだけ、おカネは誰かに偏って分配されていることになるからです。

であれば、解決方法は簡単です。所得が目減りして貧しくなった人に、政府がおカネを発行して供給すれば良いのです。変な気がするかも知れませんが、課税による所得の再分配と同じ意味です。もちろん、所得の再分配と同じく、やりすぎると社会の活力を喪失する恐れがあるでしょう。

<財政ファイナンスより国債の方が危険ではないか>

おカネを刷って財源とする方法は「財政ファイナンスだ」として頭の固い経済学者から非難を浴びそうですが、しかし、おカネを刷らず、おカネを借りて発行する国債の方が健全であるという考えは、少なくとも最近のEUにおける財政問題を見る限り疑問と言わざるを得ません。国債を返済するために緊縮財政を行い、失業者が20%を超えるスペインなど悲惨きわまりない状況です。国債こそ危険なのです。インフレ税の方がはるかに健全かもしれません。

インフレ税はシステムとして破綻した考えだとは思えません。
もっと研究が進むことを期待したいですね。


2013年6月2日日曜日

企業の租税回避 通貨発行益で対抗

Q:アメリカ議会でアップル社がアメリカに税金を払ってないと叩かれてるにゃ、何のことにゃ?

A:そうじゃな、アップル社に限らずグローバル企業や投資家はタックスヘイブンと呼ばれる、法人税の非常に低い国に幽霊会社を作って、そこで利益を出すように操作して税金を逃れとるんじゃ。たとえばアップル社の場合は、アイルランドに子会社を作り、その会社が全世界のアップル製品の販売をしたことにする。全世界のアップル製品の売り上げがアイルランドの子会社に集中して計上されるので、全世界での利益もその子会社にすべて計上されるわけじゃ。その子会社はアイルランドにあるので、利益にはほとんど課税されない。そういう仕組みじゃ。

Q:ずるいにゃー、真面目に税金を納めているのは一般市民だけにゃ。取り締まるにゃ。

A:ところがそうはいかんのじゃ。租税回避しとる企業や資産家は、違法行為をしておるわけではない。ある意味、法律の盲点をついとるのじゃ。じゃから取り締まることはできん。たとえ一円も税金を払わなくても、法律に反していなければどうすることもできんのじゃ。それに、いくら法律を強化したところで抜け道は必ずあるものじゃ。イタチゴッコじゃよ。おまけにあまりにも法律を強化しすぎると、最終的には企業そのものが国外へ逃げてしまうとも限らん。日本の法人登記を抹消してしまえば、税金など永遠に取れなくなるじゃろ。

Q:くやしいにゃ。何とかならないのかにゃ。

A:ほっほっ、税金を取ろうとするから苦心惨憺するのじゃ。税金を取らなければよい。

Q:はえ?

<徴税をやめて通貨発行益を財源とする>

A:税金を徴収するのは財政運営のための「財源」を確保するためじゃ。税金に頼らずとも財源を確保できれば良いのじゃ。つまり税金を徴収するのはやめて、かわりに政府がおカネを刷って財源とすれば良いのじゃ。これは「通貨発行益」と呼ばれるものじゃ。

Q:税金をぜんぶやめて、かわりにおカネを刷って財源にするの?

A:そのとおりじゃ。法人税も所得税も消費税も相続税もぜんぶやめるのじゃ。そのかわり、カネを刷って財源にする。これはいわゆる「インフレ税」というやつじゃ。カネを刷ると一般にインフレになるから、企業も個人も物価上昇の形で事実上「納税」することになる。こうすれば脱税は不可能なのじゃ。しかも、貯蓄を多く持っていればいるほどインフレによる資産の目減りは大きくなる、つまり大資産家ほど多くの「インフレ税」を負担する形になるから、実に公平な税制なのじゃ。

Q:でもインフレが怖いにゃ~

A:いたずらに心配する必要などないじゃろう。どの程度の物価上昇を伴うかは、需要と供給によって市場が決めることじゃ。じゃから、単純にインフレが激しくなるとは言えないのじゃ。たとえば、財源としておカネを刷れば、それはやがて消費に回るから需要が増える。その需要の増加を十分に賄うだけ供給能力が増加すれば、インフレを引き起こすことはない。発行したカネがすべて実体経済の通貨循環に吸収されてしまうからじゃ。つまり理想的に言えば、潜在的な経済成長の能力に合わせてカネを刷り続ければインフレは起きないじゃろ。もちろん、民間銀行の信用創造が生み出す通貨の影響は無視できんがな。

それに、日本人はおカネを貯めるのが好きらしいから、おカネを刷ってもかなりの額が消費ではなく貯金に回されてしまうじゃろう。貯金されてしまえば、需要は増えんから、インフレも生じにくいのじゃ。

Q:でもおカネをどんどん刷り続けるのはいいのかにゃ?打ち出の小づちにゃ。

A:思い込みにとらわれてはいかん。原点を考えるのじゃ。そもそも全世界の主流であるインフレターゲット政策とは何じゃ?実際にやっていることはアベノミクスを見てもわかるように、打ち出の小づちで「おカネを刷る」ことじゃ。全世界を見ても、毎年毎年、膨大なカネが刷られておる。ただ、現在の通貨制度では、この刷ったカネはすべて民間銀行の手に渡り、民間銀行が企業や個人に貸し付ける原資となるのじゃ。そして民間銀行に企業や個人が借金することで世の中におカネが流れ出す。これが現代の銀行制度じゃ。

だから「おカネを刷る」という意味では同じことなのじゃよ。ただし、刷ったおカネを民間銀行に渡すのではなく、政府が財源として直接に使って世の中におカネを回すのじゃ。しかも民間銀行が貸し付けする「借金」ではないので、返済する必要がないおカネじゃ。いわゆる「信用収縮」の恐れはない。

Q:う~、むずかしすぎるのにゃ。つまり、アベノミクスでもおカネを刷ってるんだから、それを、民間銀行へ渡すのではなく、政府が使えばいいだろって話かにゃ。

A:そういうことじゃ。実際のところそれに近い方法論がある。それが「日銀による新規発行国債の買い取り」じゃ。一方、アベノミクスでやっておるのは「日銀による発行済み国債の買い取り」じゃ。何が違うのかと言えば、何も違わん。どちらも日銀がおカネを刷って国債を買い取っておるのじゃ。違うのは、日銀の刷ったおカネを「政府に渡すか、民間銀行に渡すか」の違いだけじゃ。政府に渡せば公共投資になり、民間銀行に渡せば貸し付け原資になる。にもかかわらず、政府から買えば財政ファイナンスだと非難され、銀行から買えば絶賛される。実にバカバカしいのう。

「財政ファイナンスが~~」という頭の固い連中が多いので、なら政府通貨を発行して、これを財源とすればよいのじゃ。一時期、オバマが1兆ドルコインを発行するとか言っておったが、あれじゃ。政府通貨を発行して、その発行益を財源とすれば良いのじゃ。

<税の仕組みを根底から変える>

Q:へ~、税金のかからない国家にゃ。といっても、インフレ税はかかるにゃ。でも面白いにゃ。

A:考えてみると実に面白いのじゃ。税金を集める必要がなくなるから、世の中は激変するじゃろ。まず税務署がぜんぶ不要になる。これだけで膨大な経費削減になる。しかも財務官僚も減らせるし、財務官僚が「税」という権力を利用して得ていた既得権もすべてなくなる。脱税という犯罪がそもそもなくなり、節税対策とかいう無意味な事をする必要もない。税理士もいらない。そもそも各企業において、税制という複雑怪奇な制度の運用に費やされていた労働をすべてなくすることができるのじゃ。その労働力を生産活動に回した方がよほど良い。

Q:でも、おカネをどんどん刷ったら円安になるにゃ。輸入品のインフレが酷くなるにゃ。

A:確かに円安になるじゃろ。すると輸入品のコストが上がってインフレが進むこともあり得る。じゃが円安は輸出産業のコスト競争力を高める結果となり、国内経済が活性化するのじゃ。輸出が増えれば、稼いだ外貨を円に買い戻す必要量が増えるから、その分だけ円買いも増え、値を戻す。それに、輸出産業が潤えば、そのおカネがめぐりめぐって、やがて他の国民の所得も増やし、インフレの影響は相殺されるじゃろう。アベノミクスをみれば一目瞭然じゃな。

Q:面白いにゃ面白いにゃ。他にどんな事になるにゃ。

A:そうじゃな、これは単なる推測じゃが、表面上は法人や個人の税率がゼロになるから、日本が「タックスヘイブン」になるかもしれん。すると海外から膨大な数の「幽霊会社」が進出してくる。これらの会社から税を取ることはできんが、雇用を増やしてくれるかもしれないのじゃ。そして、もしかすると幽霊会社ではなく、本当に日本で財(商品やサービス)の生産を行う会社が来るかもしれない。もしそうならすごい効果じゃ。

Q:どうしてにゃ。

A:通貨発行益を財源とする以上はインフレは避けられない。じゃが、どの程度のインフレになるかは、その通貨圏における供給能力と密接な関係があるはずじゃ。すなわち、経済が成長し、供給能力が高まるほどインフレになりにくいはずじゃ。日本にどんどん企業がやってきて、日本の供給能力が高まるほど、インフレになりにくくなるはずじゃ。そうすると、それまで以上に通貨を発行しても大丈夫、という事になる。つまり、企業や個人から無理に税を取らなくても、通貨発行益として財源を増やすことが可能と言う事じゃ。もちろん、推測の域を出ないが、考えてみるには面白いテーマじゃ。

Q:面白いにゃ面白いにゃ。ぜひやるにゃ。消費税を上げるとか上げないとか、そんなミミッチイ話をしている場合じゃないにゃ。税という考えを大変革するのにゃ。

A:でも100%不可能じゃよ。なぜなら既得権益を崩壊させるほどのインパクトがあるからじゃ。まず「税務署を全部廃止する」などという考えは、役人の手で確実に潰される。通貨発行権を独占してきた銀行からも猛反対を食らうだろう。こんなことを言い出す政治家は暗殺されても不思議ではない。既得権益とは社会の支配構造そのものじゃ。

Q:やっぱり絶望的なのにゃ。何も変わらないのにゃ。

A:じゃが僅かな希望は、まがりなりにも政治体制が「民主主義」であるということじゃ。多くの国民が問題意識を持ち、マスコミの垂れ流す情報を信じることなく、自らさまざまに考えるようになれば、やがて世の中を変える事ができるかもしれん。夢のような話じゃが、今はそれを信じるしかないじゃろう。