2013年7月28日日曜日

年金は破綻するか?

Q.このままだと年金が破綻するとマスコミが騒いでいるにゃ。少子高齢化で高齢者人口の割合が増え、若者が高齢者の年金を支えきれないというにゃ。そのために消費税増税が必要と言ってるにゃ。あるいは年金は積立方式にすべきだとか言ってる人もいるにゃ。どうなってるのかにゃあ。

A.そうじゃな。確かに様々な事が言われておるから、なんだかよくわからんのう。しかし、「年金の財源」という本質をしっかり押さえ、そこを出発点として順に考えてゆけば、実はすっきりわかってくるのじゃよ。

Q.へえ、「年金財源」の本質って何かにゃ?

A.それは生産力の事じゃ。年金の財源というからおカネの事のように思えるが、実はおカネではない。なぜなら、リタイア後の高齢者はおカネを食べて生活するわけではない。さまざまな生活必需品を消費して生きてゆくのじゃ。それらの商品やサービスは「財」と呼ばれる。我々が生きていくにはおカネが必要なのではなくて、「財」が必要というのが本質じゃ。つまり高齢者も含めて国民の生活を十分に支えるだけの財を生産できるかどうかが問題なんじゃ。じゃから、どれほど高齢化が進んで生産人口(働く人の人口)が減少しても、十分な生産力があれば何も心配することはない。つまり、年金財源を確保するとは、おカネのやりくりを考える以前に、いかに日本の生産力を維持拡大するか、という事に尽きるのじゃ。

Q.なるほど、生産技術の進歩や機械化で日本の生産力を維持・拡大することが年金財源の本質なのにゃ。だから、おカネの事をかんがえてばかり居ても何も解決しないのにゃ。

A.そうじゃな。ところで年金は積立方式にすべきという人もおるな。これも同様に無意味じゃ。ところでネコはおカネを貯めるという本質的な意味はなんじゃと思う?

Q.う~ん、そんな事は考えたことないにゃ。財産を貯めると言う事かにゃ?

A.そうじゃな、普通はそう考えるじゃろ。じゃが、おカネを貯めても財産にはならん。おカネそのものには何の価値もないからじゃ。おカネを貯めると言う事は、将来において財(商品やサービス)と交換できる、という約束を貯め込んでいる事にすぎん。実際には、いま、ここには存在しないが、将来において作られるであろう財と交換できるというのじゃ。ということは、将来において交換できる財が存在しなければまったく無意味なのじゃよ。将来において日本の生産力が衰えておれば、おカネの価値も相対的に低下しておる。日本の生産力が衰えれば貯蓄は意味をなさなくなる。じゃからおカネを信用していない中国の人は、むかしから貴金属で蓄財すると聞いたことがある。

もし、本当に蓄財したいのであれば、それそのものに価値がある「財」すなわち「商品やサービス」を貯め込むべきじゃな。将来に備えて食料や衣料品を託分ける。これなら本当に蓄財になる。じゃが財と言うのはおカネと違って年月と共に劣化するから、本当の意味での蓄財は現実には成り立たん。

Q.でも日本の生産力が弱体化するなら、貯めたおカネを外貨に換えて、途上国に投資するにゃ。すると利息で外貨が増えるにゃ。日本はもうだめだから、アジアの成長を取り込むとか言ってるにゃ。利息で増えたおカネで途上国が生産した財を輸入すればいいんじゃないかにゃ。途上国の生産力を利用するから日本の生産力がだめになってもいいという主張する人もいるにゃ。金融立国だそうにゃ。

A.そういう案があるのは知っておる。じゃがそれは途上国に依存する、というか「寄生する」方法じゃ。もしその途上国の経済がおかしくなったらどうする?途上国の経済は不安定じゃ。多くの国に分散投資すると考えるかも知れんが、グローバル化がすすんでしまった現代社会では、経済危機が発生すると不況は全世界に連鎖してしまう。じゃから部分的には「投資」という方法もありかもしれんが、根本的に外国頼みで日本の年金財源(生産力)を設計するのは危険すぎる。たとえば投資した国が中国や韓国のような国だったらどうするのじゃ。投資相手が反日国家ならすべてパアになりかねん。

Q.積立方式で解決するほど甘くないのにゃ。でも積立方式は税方式よりいいのかにゃ?

A.そうとは限らん。たとえばインフレ率が高い場合、積立方式の年金基金だと、物価上昇を上回る収益をあげられなければ、年金は目減りしてしまうじゃろう。その点、税方式であればインフレになれば税収もそのぶん増えるからカバーできる。物価スライド年金が可能じゃ。しかし、年金方式であろうと税方式であろうと、年金を支える日本の生産力が低下すれば、どれほど「年金の収支」つまり「見かけ上の財源」が確保できても、国民は貧しくなる。マスコミや役人が騒いでいるのはあくまでも「年金の収支」つまり「見かけ上の財源」に過ぎん。

Q.じゃあマスコミや役人が騒ぐ「年金の収支」はどうでもいいの?

A.もちろんまったく意味が無いわけではない。じゃが極論を言えば、年金は「通貨発行」で賄えば良い。なぜなら、おカネは見かけ上の問題じゃから、日本の生産力(潜在生産力もふくめて)が十分にあるなら、通貨発行で年金を支給することは可能じゃ。すなわち、年金は絶対に破綻することはない。年金問題の真の論点はカネの収支などには無いのじゃよ。

とにかくマスコミや役人が騒ぐ表面的な問題から一日も早く脱却し、本質的な課題である「日本の生産力を高める事」に集中することが年金問題の最優先課題じゃ。そして、生産力と同時に「財の耐久性」を高める努力が必要じゃ。つまり、財(電化製品、車、家財、家)が長持ちして、人々が財を長く使うようになれば、それだけすくない生産力で国民の需要を満たすことができるからじゃ。つまり高齢者を支えるための「必要生産力」を減らすことができる。

Q.なるほど消費税で年金問題が解決するなんでウソにゃ。表面的なおカネの収支で年金問題は解決しないのにゃ。でも、どうすればいいのかにゃ。どうすれば日本の生産力を維持したり、財の耐久性を高めたりできるのかにゃ。

A.カネじゃよ。

Q.おかね?

A.そうじゃ、カネじゃ。何のために金融緩和でカネをばんばん刷っとるんじゃ?今のままでは、株や土地などの資産が値上がりするだけじゃ。もちろん、それが景気回復を引っ張る起爆剤となる可能性は否定しないし、それで日本の生産力が増える可能性はあるじゃろう。じゃが、その成長の背景にはふたたび「借金のあくなき膨張」がある。現代の経済システムは民間の借金で景気が支えられる仕組みになっておる。借金依存は金融資本主義の基本構造じゃから避けられんが、再びバブルとバブル崩壊を引き起こす可能性は高いじゃろう。安定的とは言えん。それよりも、インフラや基礎的な研究開発にどんどん直接投資をすべきじゃ。

Q.たとえばどんな投資がいいのかにゃ。

A.そうじゃな、インフラについてはやはり「エネルギー」じゃ。どれほどリサイクル技術が進んでもエネルギーだけはリサイクルできん。エネルギーこそが国家の浮沈を決めるのじゃ。原子力も有望じゃったが、あまりにリスクが高すぎる。やはり再生可能エネルギー開発じゃろう。どうせ金融緩和でカネをじゃぶじゃぶに刷っているのだから、銀行に渡すんじゃなくて、直接にエネルギー開発に使うべきじゃ。日本は火山国じゃ。実用化には莫大な費用と時間がかかるが、マグマ発電という「ほぼ無限」のエネルギー開発をしてほしいのう。それこそ技術立国日本のロマンじゃがなあ。

Q.じいさんはロマンとかいう年じゃないにゃ。それより他に何か無いのかにゃ。

A.ほっとけ。そうじゃな、あとは「ばら撒きで無駄遣い」することじゃ。

Q.無駄遣いは良くないとマスコミが言ってるにゃ。

A.そうでもないんじゃ。世の中の進歩は、ほとんど暇人間の無駄な研究からスタートしとる。学者なんてものは、そもそも役に立つかどうかわからんような、得体の知れん研究に朝から晩まで没頭しとる。カネになるかどうかなんか関係ない連中じゃ。多くのケースでは何の役にもたたんじゃろう。じゃがそういう変な研究が盛んに行われると、偶然に世紀の発見にぶちあたる可能性がでてくる。確率論なのじゃよ。成長分野とか役人は間抜けな事を言っとるが、未知の分野において、狙い澄まして成功することはまずあり得ない。カネをばらまいて、変な学者をたくさん集めて、山のように変な事をやらせる。大いなる無駄じゃな。じゃが無駄ではない。そして、こういう馬鹿な無駄遣いができる国家こそ、本当の意味でゆとりがある国家なのじゃ。そういう国家こそ「学問のすそ野が広い」というのじゃ。

Q.話のスケールがでかすぎるにゃ。身近なところでは何か無いのかにゃ。

A.もちろん、まずは「デフレ脱却」じゃ。デフレということは、使われずにブラブラ遊んでおる余剰生産量すなわち「デフレギャップ」が存在することを意味する。こいつが年間20兆円とも言われておるから、消費税10%分も無駄にしておる事になる。実に無駄じゃ。カネを刷って労働力や設備を動かせば「財」が生まれる。カネは財を生むための道具に過ぎんと考えるべきじゃ。カネは財を生んでこそ意味がある。

Q.やっぱりデフレ脱却、デフレギャップの解消が生産力を高める近道なのにゃ。ところで、年金って、支払った金額より受け取る金額が多くなるのが常識だと思うにゃ。でも、どうして増えるのにゃ?

A.なぜ払った金額より受け取る金額が増えるのか?普通の庶民は「利息だ」と思っとるじゃろう。確かに表面的には利息じゃ。じゃが単に利息だけなら「資産ころがし」でも増やせる。マネーゲームでカネを増やす現代の病んだ経済に慣れてしまった人々は不思議に思わないかも知れんがな。じゃがマネーゲームでおカネを増やしてもインフレになるだけじゃ。カネの価値の裏付けである「生産力」が同時に増えなければならん。カネだけ増えてもだめじゃ。消費税の増税による年金の帳尻合わせと同じじゃよ。

Q.じゃあ、マスコミが騒いでいる「生産性の向上」ってヤツかにゃ。高齢化社会では生産効率を高めることが必要とか言ってるにゃ。でも、生産効率を高める最高の方法って「解雇」にゃん。人を減らせば企業の生産性は高まるにゃ。どうもおかしいにゃ。

A.そうじゃな。実は企業(ミクロ)における生産性や効率と、社会(マクロ)における生産性や効率は、意味が異なるのじゃ。ミクロでは人件費の抑制こそが生産性を高める最高の方法じゃ。この場合、生産性とは利潤の最大化を目的としとる。じゃからマスコミがさかんに「解雇規制緩和」を唱える。解雇しやくすなれば、企業と株主は守られるからじゃ。じゃから失業者が増えても企業の生産性は高まる。

しかし、社会全体(マクロ)で見た場合、失業者が居るということは生産性の悪化を意味する。なぜなら稼働率が低下するからじゃ。たとえば100人の労働者のうち、20人が失業して80人しか働かなければ効率が悪くなる。つまり、社会の生産性を高めるとは、失業者を限りなくゼロに近づける事をいうのじゃ。

Q.ふにゃ。ミクロとマクロではまるで正反対にゃ。あやうく騙されるところにゃ。

A.マスコミは普通の人々が持っておる思い込み、いわゆる「暗示」を利用して意図的な誤解を仕掛けてくる場合があるので、十分な警戒が必要じゃ。よく考えてみると、資本主義が効率が高いというのは企業レベル(マクロ)においてのみであることがわかる。社会レベル(マクロ)で見ると、失業は増えるし、不況は起こすし、そもそも広告宣伝や営業に莫大な投資が必要なのも、実は非効率的じゃ。つまり、資本主義経済は
ミクロの生産性は高いが、マクロ的にはむしろ非効率であるとも言える。

ミクロを極端に信仰するのが「新自由主義」じゃ。グローバル化も規模こそ大きいからマクロなのかと思えるかも知れんが、実際にはミクロ経済を強化するための道具に過ぎず、かえってマクロ・コントロールを不能にする政策じゃ。極めて「バランスが悪い」と言える。ミクロとマクロの調整こそが大切なのじゃよ。

年金を考える場合も、ミクロとマクロの両面からバランスよく考えたいものじゃ。