2015年1月8日木曜日

トヨタ車特許開放 勝算はあるか?

トヨタが水素自動車の特許を開放するらしい。驚きましたね。確かに欧州では電気自動車が優勢との話も聞きますから、その劣勢をひっくり返す「捨て身の戦略」でしょうか。ディフェクト・スタンダード(業界標準)の掌握に動いたわけですね。

しかしこれを聞いてすぐ思い出すのは、IBMのDOS/Vマシンです。DOS/Vマシン(PC/AT互換機)はIBMが開発したPCの基本構造ですが、この技術をオープンにして、互換機の製造を認めたわけです。そのため多くのPCメーカーがこの方式を取り入れ、瞬く間にDOS/Vマシンは業界標準となり、他の規格を駆逐してしまいました。それに乗っかって、すべてのDOS/Vマシンで動く基本ソフトを販売していたマイクロソフトがWindowsで一人勝ち。

一方、業界標準を作り出すことに成功したIBMですが、台湾や中国などの人件費の安い国で互換機が格安で大量生産されるようになり、IBMのパソコン部門は価格競争に敗れて衰退。やがて中国のレノボに事業買収されて幕を閉じました。

では、トヨタにはどのような算段があったのでしょうか。

やはり最も大きいのは「標準規格化」なのでしょう。次世代自動車の標準はまだまだ未確定です。もし、水素自動車が世界の主流になりつつある状況であれば、今回のような異例な方法は取らなかったでしょうね。水素自動車の日本におけるシェアを100%を確保するより、世界の次世代自動車シェアの10%を占めた方が、はるかに大きな売り上げを確保することが出来るはずです。水素自動車の市場が巨大化すれば、トップシェアである必要はないわけです。

もし何らの手を打たずにいると、ビデオ記録方式であるソニーのβ規格のように、技術的完成度が高いのに、売り上げが伸びないという結果になる可能性もあるわけです。

ただし問題は特許の開放期間「期間限定」という部分ですね。これがネックとなって、業界標準にならない可能性も十分に高いと思います。無償期間は約6年ですが、その間にトヨタの特許を回避する新たな特許を開発できなければ、6年後にトヨタに対して特許料を払う必要が出てきます。そうなると、技術開発力を有するメーカーであれば、そのまま自社開発を行うでしょうし、電気自動車方式から乗り換えるメーカーも無いかも知れません。そうなると今回の特許解放は無意味に終わります。

ですから、本気で業界標準を目指すのであれば、「無期限の特許開放」にする必要があると思います。もし無期限解放したとしても、トヨタの開発力は非常に強いはずですから、開放する特許以外の部分で、新しい特許を取得したり、商品全体として差別化を確立することが出来るはずです。

そして、本気で水素社会を実現するというのであれば、水素の生産が課題ですね。水素生産の際にCO2が大量発生しては意味が無いですし、CO2を回収したとしても、石油・天然ガスから合成するには埋蔵量の限界があります。ですから、最も重要なのは「自然エネルギーから水素を直接作る」技術だろうと思われます。

太陽光発電にしろ、風力発電にしろ、今のところ自然エネルギーと言えば、一次的には電気が最初に生産されます。これを用いて二次的に水素を生産するのであれば、エネルギー変換効率が低下すると思われます。つまり、電気自動車の方がスマートです。

ですから、太陽エネルギーで直接水素を生産する装置や、バイオ燃料を量産し、そこから水素を合成するような技術の開発も必要になると思われます。これには政府の支援が必要です。