2016年1月19日火曜日

死亡バス事故と規制緩和

つい先日、多数の死傷者を伴う痛ましいバス事故が発生しました。その原因についてはまだ調査中でありますが、バス事業への参入規制緩和がその一つの原因ではないかとの見方もあります。

しかし一方では、バス規制緩和後の貸し切りバスの事故発生率に増加がほとんど見られないことから、規制緩和と事故の直接の因果関係については否定的な見方も示されています。ではバスの規制緩和に問題は無いのでしょうか。

関係者へのインタビューなどを見る限り、業界におけるバス運転手の人手不足はあるようで、技量の低い運転手を採用しなければ運行ができない実態のようです。また、バス運行業者がツアー会社から、国が定めた最低運賃基準をはるかに下回る格安料金で請け負っていたことも発覚。参入業者増加すれば請負料金が低下し、質の低下が生じるのは当然でしょう。

こうした事態を受けて、バスの運行にはさらなる安全規制が課せられる事になるわけで、しかも、行政はさらにバス会社への管理指導を綿密に行う必要性が生じてきます。つまり、バス参入規制の緩和に伴い、安全規制と管理指導がさらに強化され、行政の負担が増加して行政コストを引き上げることになります。

こうなると、本当にバス事業への参入規制緩和が効果的だったのか?と言えば、疑問であると言わざるを得ないでしょう。統計的にバス事故数と規制緩和に相関が見られなかったとしても、だからといって、規制緩和にまったく問題がないとは言い切れません。

では、規制緩和はすべきでないのかと言えば、そうではないでしょう。緩和すべき規制と、守るべき規制をきちんと検討し、もし問題が生じた場合は「規制を元に戻す」ことも必要ではないでしょうか。ただ規制を廃止すれば良いわけではない。また、重大な安全性に関わる分野の規制緩和は、より慎重であるべきだということが今回の事故で示唆されるわけです。

と同時に、不況環境での参入規制緩和もまた問題です。経済が不況とは需要が少ない状態であり、需要が少ない時に業者の参入規制を緩和すれば、供給過剰がさらに酷くなり、低料金により受注を取る、いわゆるブラック企業が増加します。ブラックであることが不況環境では最大の強みとなるのです。不況環境における参入規制の緩和により、ブラックな企業が続々と参入し、良質な企業を淘汰してブラックな企業が勝ち残ります。

つまり、規制緩和にはタイミングが必要なのであり、インフレ環境のような、需要過剰・供給不足の時にこそ規制緩和が必要なのであり、「規制緩和ありき」ではないわけです。世の中の需要が増えて供給不足の状態になった時に、効率化が求められるのであり、そうしたタイミングで規制緩和が行われることが重要であると思われるわけです。