2016年7月13日水曜日

また始まった「日本は成長しない」論

先日ネットで記事を読ませていただいたが、例によって左派系の識者が「日本は成長しない」と断言し、しかも、それに対処するための何の提案もアイディアもなく、「政治はこれにどう対応するのか問われている」のような主旨を上からドヤ顔(記事で顔は見えないのだがw・・)で主張していました。

この手の「日本は成長しない」「日本は山を降りる」論は、安倍政権前に続々と登場したものの、その後は金融緩和で景気が上向いていく中で、少し静かになっていたのですが、このところの世界経済の悪化を受けて日本の景気がおかしくなったため、にわかに元気になってきたようです。

記事の主張として、成長しない理由は投資収益率の低下(利子率低下)にあるといいます。経済成長の根幹となるイノベーションに投資しても技術の陳腐化の速度が速い今日では、投資利益を十分に回収できない。投資収益が低下すれば投資する企業は減り、おカネが循環しなくなる。それこそ戦争によるインフラ破壊でもしない限り、投資は必要とされないから、経済は成長しないという話です。それだけ見れば確かにそうなのですが、彼らの話はそこで終わり。しかし、そんな単純な話ではないでしょう。

現在の日本は所得格差が拡大し、貧困層が増加しています。低所得層は買いたくてもおカネがなくてモノが買えないのですから、こうした低所得層の所得が増加し、一億総中流の日本になれば、それだけで需要が増えてGDPは増加します。つまり格差を解消すれば、その分だけ経済は成長するわけです。逆に言えば、経済が成長しなければ、一億総中流には戻れません。

もちろん、一億総中流になって、人々の需要が十分に満たされるようになれば、経済成長率はやがて低下するでしょう。そこで重要になるのが政府の財政支出による投資です。

財政支出による投資と聞けば「これ以上の公共事業は必要ない」と反射的に考える人がいるようですが、公共事業をするだけが財政支出ではありません。社会福祉も財政支出ですし、研究開発投資もまた財政支出です。

ですから、投資収益率の低下によって民間企業がイノベーションに投資しないのであれば、投資収益とは無関係である政府がイノベーションに投資すれば良いのです。もちろん政府が借金して投資すれば採算性が問われますが、政府が通貨を発行することで、通貨発行益を利用してイノベーションに投資するのであれば採算性は問われません(もちろん出鱈目に投資して良いわけではない)。それがヘリコプターマネーです。

もちろん、それが可能なのはデフレ、つまり経済が成長せず、生産力が余ったまま無駄に失われている状態であればこそです。その余剰生産力を活用してイノベーションを起こすわけです。

民間企業がイノベーションに投資しないなら、政府が財政出動でイノベーションに投資する。あるいは民間の研究開発を促進するための減税、助成金などの財政出動を行う。そうすれば、成長する余地はまだまだあります。

科学技術の進歩がある限り、生活の豊かさとしての経済は成長し続けるはずです。もちろん、将来において経済成長の意味は、現在のような拝金主義的な意味とは違うものになるべきでしょう。つまり「投資収益のために成長する」のではなく、「人々の生活のために成長」するわけです。