2016年11月16日水曜日

「輸出が増えれば豊かになる」は短絡的

新聞マスコミは、何の疑いも無く「自由貿易は輸出を増やすから国民を豊かにする」という。そしてそうした記事を長年にわたり読まされてきた多くの人々も、すでに思考停止状態となり、言われるがままに、自由貿易で輸出が増えれば国民が豊かになる、と信じ込んでいる状態です。しかし、

なぜ、輸出が増えると国民が豊かになるのか?

多くの人々は、その事をきちんと考えたことがあるとは思えません。おそらく、その質問にはこう答えるでしょう。「輸出すれば、おカネが儲かる、だから豊かになる」と。その内容で多くの人々は納得してしまうと思われます。しかし、おカネが儲かったら豊かになるのか?

もしそうなら、輸出するのではなく、日本の政府がおカネをどんどん刷って、そのおカネで輸出用の商品をどんどん買えば、企業は儲かります。過去に発行したおカネであろうと、新しく発行したおカネであろうと、おカネに違いはないため、刷ったおカネで企業の売り上げが増えても同じことです。企業の売り上げが増えれば儲かることになるのですから。

あるいは、外国がおカネを発行して、たとえばアメリカがどんどんドルを発行して、そのおカネで日本から輸出用の商品をどんどん買えば、企業はやはり儲かります。つまり、「儲かるから豊かになる」というのであれば、新たに刷ったおカネで企業が儲けても同じことなのです。

何か変だと思うはずです。そうです、刷った紙切れと商品を交換しているからです。カネという視点だけで経済を考えているからおかしなことになります。「カネが儲かればよい」わけではないのです。カネが儲かって豊かになる理由は何か?それは、

儲けたカネでモノ(財)を買うことで、豊かになる。

つまり儲けただけでは意味が無い。例えば輸出で儲かっても、それは「おカネを手に入れただけ」なのです。紙切れを手に入れただけです。そのおカネで輸入を増やさねば豊かにならない。

すなわち、自由貿易で国民が豊かになるには、輸出をどんどん増やせば増やすほど、輸入も増やさねばなりません。紙切れだけ貰っても豊かになりませんから。では、輸入をどんどん増やすことはありえるのか?未来永劫に輸出と輸入を増やし続けることなど。

たとえば、前世紀(1900年代)であれば、世界の生産力はまだまだ低く、現在のような消費不足&生産過剰の経済状況ではありませんでした。こうした生産力が低い時代では、自由貿易による国際分業は一定の効果があったはずです。モノが足りないんですから。しかし、先進国における生産力はすでに飽和になっており、それぞれの国は輸入を増やすどころか、「オレの国の製品を買え」と、貿易戦争、通貨安戦争まで起きている有様です。

もう、古い時代の常識をそのまま適用することはできません。

生産過剰の時代では、貿易に関しても新しい常識が必要とされているはずです。それは一見すると保護主義であると思われがちですが、第二次世界大戦前のようなブロック経済を意味する、化石のような一国主義とは無関係です。

「自由貿易か鎖国か」、などという極端な二元論で考えることは単純すぎます。新しい時代の貿易は「儲かればよい」という拝金主義から脱し、世界中の社会や人々の暮らしとの、新しい、世界調和的な思想が必要だと思うのです。