2017年1月6日金曜日

労働市場ではなく「仕事市場」で考える

介護職はきつくて大変な仕事ですから、その仕事を希望する労働者は少ないはずです。すると労働供給不足から「労働市場」において、介護職の賃金は高くなるはずだといいます。しかし実際には賃金が安い。どうしてそうなるのでしょうか?

これをもって「市場が歪んでいる」と判断する人もいますが、
果たしてそうなのでしょうか。

上記は労働市場という概念を用いた考えかたです。例えば介護職よりも、カネを転がしているような仕事の方が楽ですから、労働市場では、そちらの仕事を希望する労働者は多いはずです。希望者が多ければ、そちらの仕事の方が労働市場では賃金が安くなるはずです。ところが、実際にはカネを転がしている楽な仕事の賃金が高く、介護福祉職の仕事の賃金は低い。説明が付きませんね。そこで早々「市場が歪んでいる」という話になります。しかし、そもそもこれを労働市場で考えるのは無理があります。労働市場では万人の労働力はすべて均一として扱うからです。

これを「仕事市場」で考えると市場原理で説明できます。

労働市場では、労働力(商品)賃金(代価)を仮定します。一方、仕事市場という概念では、仕事(商品)と能力値(代価)を仮定します。つまり、企業が提供する仕事を商品とし、それを労働者が提供する能力値で買うとする考え方です。仕事と能力値を市場で交換するのです。能力値はあたかも仕事を買う「購買力」に該当します。従来の労働市場の考えでは、それが無視されています。すなわち、労働市場では万人の労働力はすべて均一として扱いますが、実際は労働力に個人差があります。それが能力値です。

企業が提供する仕事商品のうち、簡単で賃金の高い仕事は皆が欲しがります。ですから、市場では値段が上がります。それを買い取るためには、十分に大きな能力値を支払う必要があります。こうして、能力値をたくさん持っている人から順に、より有利な仕事を買い、能力値の少ない人は最も人気のない、きつくて賃金の安い仕事商品を買うしかなくなるのです。

さて、デフレで仕事が少なくなると、人々は争って仕事を買い求めるようになります。そのため仕事を買うための能力値価格は高くなり、能力値の高い人だけが品質の高い仕事を買うことができるようになります。また、仕事商品の数が少ないですから、人気のない、品質の悪い仕事であっても、売れるようになります。この劣悪な仕事商品を供給するのがブラック企業です。

一方、インフレで仕事が増えると、人々に求められる能力値は低くなります。そのため、能力値の低い人でも、より品質の高い仕事商品を買うことができるようになります。すると、劣悪な仕事商品は売れなくなり、売れ残り、そのような仕事を供給するブラック企業は淘汰されるのです。

こうして、介護職の低賃金を市場原理を用いて説明することができます。つまり、市場が歪んでいるのではなく、説明に用いている市場モデルが適切ではないだけだと思われます。

なお、仕事市場と言う考えは奇妙ではありません。「市場」とは交換の場であり、現象に過ぎません。ですから交換される対象が貨幣であれ、モノであれ、労働力であれ、同じ原理が働きます。交換が存在するところ、必ず市場という現象が発生します。