2017年7月11日火曜日

消費税によるベーシックインカムの問題点

「消費税によるベーシックインカム」を主張する人も居るようですが、これは「国民を平等に貧しくする」リスクがあります。デフレ時代における最適な財源は消費税ではありません。

消費税による税収は国民の総消費量に制約されるため、それを財源としてベーシックインカムを実施したところで消費総量を増やすことはありません。そのためデフレ経済を解消したり、経済活動を活発化させる効果はありません。それではデフレ・供給過剰の時代のベーシックインカムとしては無意味です。なぜでしょうか。

たとえば国民を一つの経済主体として考えた場合、総消費に投じられるおカネが100だったとして、そのうち20が消費税であれば消費税以外の部分は80です。その20をベーシックインカムとして国民に戻したところで、国民が消費に使うおカネの総額は80+20=100のままです。フロー(循環通貨)に課税して財源とすれば当然の結果です。

ただし、国民の総消費が増加しなくとも、再分配としての機能はあります。国民を高所得者と低所得者からなると考えた場合、高所得者の消費が減って低所得者の消費が増えると思われます。貧しい人にはメリットになるでしょう。しかし国民総消費から見れば「取って戻すだけ」なので、意味がありません。それどころか、通貨は循環するうちに一部分が必ず貯蓄つまり「退蔵」されてしまう性質があります。フローがストック(貯蓄通貨)になるのです。そのためフローは徐々に減り続け、社会はジリジリとデフレが悪化し続けます。非常に筋が悪い財源論です。

とはいえ、もし50年前のインフレ時代にベーシックインカムの財源を消費税に求めるとすれば、優れているでしょう。なぜならインフレ時代は供給力が総じて不足しているため、ベーシックインカムによって国民総消費を増やすと、インフレが激化してしまうからです。このため総消費を増やさずに再分配を行うには消費税が財源として適しているのです。

仮に消費税ではなく所得税を財源とした場合はどうでしょう。所得は消費活動の前段階にあります。所得のうち、貯蓄を除いた部分が消費に向かいます。一般に高額所得者ほど貯蓄率は高くなるため、累進課税により高額所得者の所得に課税するほど、貯蓄によって退蔵されるおカネの量(ストック)は減少すると考えられます。つまり有り体に言えば、「貯め込むヤツに渡すカネを減らして、貧しい人に配れば、貯蓄せずに消費に回る」という話です。

ただし、この場合もフローである「国民総所得」がボトルネックになります。国民総所得よりも多くの消費を促進することは、逆立ちしても不可能です。所得税を財源とするベーシックインカム制度は、国民経済からみれば、貯蓄によって退蔵される通貨の量を抑制する効果しかありません。

一方、資産家がしこたま貯め込んでいる「貯蓄」ストックに課税してこれを財源とすれば、貯め込まれて死蔵されていたおカネが世の中に出てきますから、フローが増加して経済活動が活発化する可能性があります。あるいはヘリコプターマネーのように、通貨発行によってフローを増加させても同様です。この場合は循環するおカネの増加によって消費が伸び、国民の経済規模が拡大します。すべての国民が豊かになれます。世の中のカネを回しながら、ベーシックインカムを行う。これが経済的に優れた方法です。

ただし、この方法はテクノロジーが進化し続ける今日のデフレ時代、つまり供給過剰の時代において優れているのであって、50年前のインフレ時代に行ってはいけません。つまり最適財源は「絶対的」に決まるのではなく、経済環境によって相対的かつ柔軟に最適解を求めるべきなのです。

むしろ、絶対的に消費税を財源とするベーシックインカムの論は、財務省による「消費増税のための口実」に利用されるリスクが高いと考えられます。少なくともリベラルな人々は、ベーシックインカムをこうした増税の口実に利用されないように十分な注意が必要だと思います。そのベーシックインカムは、国民を平等に貧しくしてしまいますよ。

頭は常にやわらかく。
本当の財源とは、カネのことではないのですから。