2017年12月4日月曜日

通貨供給としてのケインズ主義

ケインズ主義(財政出動)における通貨供給の役割について、多くの人は認識していないような気がします。しかし財政出動は金融政策と並ぶ通貨供給の方法であり、金利によらない強力な通貨供給を可能とする政策です。

(じいちゃん)
「ケインズ政策って知ってるかね」

(ねこ)
「うにゃ、知ってるにゃ。政府が公共事業や社会保障として財政出動することで、世の中の有効需要を増やすのにゃ。すると人々におカネが行き渡って、国民所得が向上するから消費も拡大して景気が良くなるにゃ。」

(じいちゃん)
「その通りじゃな。国民の所得が増えて消費が拡大することが重要じゃ。中には「公共投資すれば需要が増えるから」なんて思っておる人もいるようじゃが、それは表面的なことに過ぎない。確かにダムや橋を作ればGDPは拡大するが国民が直接に豊かになるわけではない。それを通じて国民におカネが行き渡ることが重要なんじゃな。

それじゃあ、国民所得が増えるとすると、そのおカネはどこから出てくるんじゃ?」

(ねこ)
「そう言われてみると、考えた事がなかったにゃ。国民の所得が増えるなら世の中のおカネの総量も増えるのは当然だから、おカネを発行しているんじゃないかにゃ。」

(じいちゃん)
「そうなんじゃ、ケインズ主義つまり財政出動は世の中のおカネを増やしておるのじゃ。おカネを増やすからこそ国民所得は増大する。どういうことか。

政府が景気対策として財政出動をするような時は、景気が非常に悪い状態の時じゃ。例えば大恐慌の後、バブル崩壊の後なんかだ。こんな時は税収がまったくあてにならないから、政府は国債を発行して資金を調達する必要があるんじゃ。政府の発行した国債の多くを引き受けるのは市中銀行じゃ。市中銀行が国債を買うと、結果的に信用創造が働いて預金通貨が発生する。これはマネーストックと呼ばれる「おカネ」のことじゃ。

つまり、財政出動によって政府が国債を発行し、それを元に市中銀行が預金を発行することで世の中のおカネ(マネーストック)が増える仕組みになっておる。これが国民所得を押し上げる。」

(ねこ)
「ふ~ん、ケインズ主義に関しては、有効需要にばかり気を取られておカネの供給面については注目していなかったのにゃ。そういう人は多いんじゃないかにゃ。」

(じいちゃん)
「財政出動による通貨供給機能には面白い特長がある。それは「世の中の金利とはまったく無関係に世の中のおカネを増やすことができる」という特長じゃ。

一般におカネの供給は金利によって決まるとされる。それは現在の通貨制度が借金によってすべてのおカネを供給する仕組みになっているからじゃ。金利が低いと借金する企業や個人が増えるから世の中のおカネが増え、金利が高いと借金する企業や個人が減って返済が進むから世の中のおカネが減ることになる。よって、世の中のおカネの量をコントロールする方法として金利が用いられる。

一方、財政出動は政府が国債の発行によって増やしたおカネを公共工事や社会保障などに使うことで、直接に世の中のおカネを増やす。そのため金利が高かろうが低かろうが関係ない。前者との違いは、前者の場合が企業や個人が借金することで世の中のおカネを増やしたのに対して、後者は政府が借金をすることで世の中のおカネを増やしたことになる。いずれも市中銀行から借金することで世の中のおカネを増やす点で違いはない。

前者は「金融政策」と呼ばれる方法で、金利によっておカネの供給量を決める方法。後者は「財政出動」と呼ばれる手法で、財政出動によっておカネの供給量を決める方法だと考えることができる。」

(ねこ)
「金利をゼロに下げても貸し出しが増えない状態(流動性のワナ)になっても、金利とは無関係の財政出動を使えば、いくらでも世の中のおカネを増やすことができるのにゃ。だから財政出動は効果があるんだにゃ。」

(じいちゃん)
「そういうことじゃ。いずれにしても世の中におカネが存在するためには、市中銀行から借金をしなければならない。もしすべての借金を止めてしまったら世の中のおカネはすべて消える。従って、必ず誰かが市中銀行から借金をしなければならないのじゃよ。今は企業も個人も借金をしたくないらしいので、政府が借金を引き受けるしかないわけじゃ。」

(ねこ)
「誰かが必ず借金を負わないと通貨制度が崩壊するなんて、やっぱり現代の通貨制度はおかしいにゃ。」

(じいちゃん)
「そこで現在の準備預金制度に代わって、政府通貨制度を採用する方法をお勧めしておるのじゃ。100%マネーとも呼ばれておる。といっても社会に大変革が必要なわけではない。政府が国債の代わりに政府通貨を発行すれば良いだけじゃ。

例えばオバマ大統領が一時計画したことのある1兆ドルコインと同じように、政府が10兆円コインを発行する。それを日銀に預金して日銀当座預金とすれば、紙幣や硬貨や預金は今までとまったく変わらずそのまま利用できる。いわゆる非金融部門には一切の影響がないのじゃよ。

何が違うのかと言えば、これまでのおカネ(マネーストック)は国債発行により預金通貨として供給したために「返済が必要なおカネ」だったのだが、政府通貨の発行で預金通貨として供給するから「返済が不要なおカネ」になった。それだけなんじゃ。」

(ねこ)
「そうすれば、誰かが借金をしなくとも世の中のおカネを維持することができるようになるから、わざわざ世の中の借金を増やすために金利をゼロあるいはマイナス金利にする必要はなくなるにゃ。」

(じいちゃん)
「そういうことじゃ。おカネは金利操作ではなく財政出動によって供給できる。ケインズ主義的な財政出動は野党やマスコミから批判を浴びせられて、推進が難しい状況じゃ。しかしそれは「借金に頼っている」から難しいのであって、政府通貨の発行による財政出動であれば「借金」という制約はない。

国債を発行した場合も政府通貨を発行した場合も、財政出動は世の中のおカネを増やすことに違いはないんじゃ。であれば、国債を発行して「借金ガー」と批判を浴びるより、政府通貨を発行して財政出動することをお勧めしたい。ケインズ主義の人たちは財源を国債にこだわることなく、通貨制度に踏み込んだ議論をお願いしたいのじゃよ。」

(ウェブサイトにも同時掲載)