2018年2月15日木曜日

仮想通貨・電子マネー・銀行預金のバランスシート

2018.2.15

バランスシートにおける仮想通貨の発行のしくみについて、電子マネー・銀行預金と比較しながら考えてみました。仮想通貨がまさに恣意的な「打ち出の小槌」となる可能性は否定できないと思います。

(じいちゃん)
今回は仮想通貨の発行のしくみをバランスシートで考え、電子マネーや預金通貨とどこが違うか考えよう。なお、バランスシートを使わずにそれぞれの違いを過去記事「仮想通貨・電子マネー・銀行預金の違い」で説明しておるので、始めにそちらを読んで欲しいのじゃ。

さて、まず始めは何度も説明しておる銀行預金の発行のしくみを考えてみるのじゃ。銀行預金は市中銀行が発行する準・法定通貨じゃ。預金は銀行が企業や家計などに貸し出しを行う際に発行する。



※図が見にくい場合は本編サイト記事でご確認ください。

A)預金の発行前の状態においては、銀行にも企業・家計にも預金はない状態じゃ。B)例えば銀行が1000円の貸し出しを行う場合、①銀行が預金通貨1000円を発生させて企業・家計に貸し出しを行う。銀行にとって預金は「預かり金」を意味するので負債に計上される。一方で家計や企業にとって預金は資産じゃ。②銀行は貸し出しをしたので貸出債権(貸出金)1000円が資産として計上され、それに対して企業は銀行からおカネを借りたので負債として借入金1000円が計上されることになる。このようにして、A)なにもない状態からB)1000円の預金通貨が発生したのじゃ。これによって世の中の預金が1000円増加する。

C)もし企業・家計が借り入れを返済しようとすればB)とはまったく逆の操作になる。①企業・家計は返済として預金1000円を銀行に支払うことになり、おカネを返したわけじゃから企業・家計の借入金1000は消える。②預金1000円が銀行に返済されると銀行の貸出債権と相殺される、つまり預金1000円は消えて、同時に貸出金1000円も消える。こうしてA)元の何もない状態にもどるわけじゃな。預金は「借りては発生し、返しては消滅する」を繰り返しておるのじゃ。なお、実際には企業・家計が銀行に返済する際は利息も銀行に支払うのじゃがここでは省略する。

(ねこ)
ふにゃ、「借りては発生し、返しては消滅する」預金というおカネって何度聞いても変な気がするにゃ。まあいいですにゃ、ところで電子マネーの場合はどうなのかにゃあ。

(じいちゃん)
電子マネーは前回説明したとおり「前払い式支払い手段」と呼ばれるもので、マネーと言っても商品券と同じ分類になる。電子マネーは銀行ではなく一般の企業が発行することが可能じゃ。



A)電子マネーを発行する前の状態は、企業や家計が預金をすでに持っている状態からスタートする。B)例えば電子マネーの発行元が1000円の電子マネーの発行を行う場合を想定する。①企業・家計の人が1000円分の電子マネーをカード等にチャージしたい希望すると、企業・家計の預金の1000円が発行元に支払われて発行元の資産に計上される。②代わりに発行元が電子マネー1000円を発行し、企業・家計のカード等に電子マネーがチャージされて利用可能な状態になるんじゃ。同時に、発行元の負債に電子マネーが計上される。これは発行元からすると預金を電子マネーとして預かった状態にあることを意味する。一方、企業・家計から見れば、自分の預金と電子マネーを交換した恰好となる。

この場合は世の中の預金の量は増えも減りもしない。預金が企業・家計から発行元に移動するだけじゃ。そして世の中の電子マネーの量は1000円分だけ増える。もし広い意味で電子マネーをおカネだと考えるなら、預金と電子マネーの両方を合計すると世の中のおカネの総量が増えたことになるじゃろう。しかし電子マネーを売ることで発行元が入手した預金1000円は発行元が自由に使えるおカネではないんじゃ。なぜなら電子マネーがお店(加盟店)で使われた後で、お店から電子マネーと預金の交換を求められるからじゃ。つまり「預かり金」として預金が発行元に固定化され(流動性がない)、その預金の代わりに電子マネーが出回るという寸法じゃ。

例えば、C)電子マネーをチャージした企業・家計の人が電子マネーの加盟店から商品を買ったとしよう。その際、企業・家計のカードから電子マネーが加盟店に移動する。D)その後、加盟店は電子マネーの発行元に対して預金の支払いを請求することになる。①加盟店が電子マネー1000円を発行元に返却し、その時点で電子マネーは消えることになる。②そして発行元は預金1000円を加盟店に支払うわけじゃ。ただしその際に発行元は加盟店から電子マネーの利用料金を受け取るのじゃが、ここでは省略しておる。

(ねこ)
電子マネーはあくまでも預金の代わりとして利用されているだけなんだにゃ。預金を預かって、代わりに電子マネーを渡しているのにゃ。だから電子マネーを発行することは世の中のおカネの流通量を増やすことにはならないんだにゃ。

(じいちゃん)
ちなみに預かり金と言えば銀行の「預金」を連想するが、実際には銀行の預金は預かり金ではない。もし預金が預かり金であるなら、世の中の預金が増えるためにはあずかる元になる現金が先に増えるはずじゃ。増えた現金を預けるから「預かり金が増える」ことになる。しかし実際には世の中の現金が1円も増えなくても、銀行が貸し出しをすると預かり金であるはずの「預金」が増加する。これを信用膨張という。よって銀行預金はバランスシート上では預かり金の形になっているが(銀行の負債)、実際には預かり金ではない。

一方で電子マネーはまさに預かり金じゃ。電子マネーが増える際には、必ずおカネが発行元に預け入れられることになる。電子マネーだけが勝手に増えることはない。しかし、もし発行元が銀行と同じように電子マネーを「貸し出し」するとどうなるか?この場合はおカネがまったく預け入れられなくとも、預かり金であるはずの電子マネーが膨張する。これが信用創造の本質じゃな。ただし一般の電子マネーの発行元がこれをやれば加盟店に支払うための預かり金が不足して取り付け騒ぎになり、牢屋にぶち込まれることになるじゃろう。

(ねこ)
なるほど、おカネの仕組みは複雑だにゃ~。

(じいちゃん)
仮想通貨の場合は預金通貨や電子マネーとはまるで違うんじゃ。



A)仮想通貨は貸出やチャージの際に発生するわけじゃなく、仮想通貨の発行元がまず最初に発行する。おもちゃの紙幣を発行するのと同じことで、発行だけなら誰でもできる。ただし発行したばかりの仮想通貨は価値がゼロじゃ。A)例えば仮想コイン10万枚(時価=0円)を発行したとしよう。B)発行元は仮想コイン10万枚を市場で売りに出す。いくらで売れるかは市場原理で決まるわけじゃ。例えば①コイン10万枚を企業や家計が1000円で買ったとすると、②企業・家計が預金1000円を発行元に支払い、発行元は仮想コイン10万枚の売り上げとして預金1000円を資産に計上する。企業や家計は預金の代わりに仮想通貨1000円分を資産として手に入れる。さてここからが仮想通貨と電子マネーの大きな違いじゃ。

発行元が入手したおカネは、電子マネーを販売した際のような「預かり金」ではなく、売上金に該当するんじゃ。例えばおもちゃの紙幣を製造してそれが売れれば売り上げになるのと同じじゃ。従って③この売り上げは発行元の利益となり「純資産」に剰余金として計上されるわけじゃ。従ってこのおカネは発行元がすべて自由に使うことができる。

(ねこ)
ふにゃ~、なんだか発行元は丸儲けなんだにゃ。

(じいちゃん)
確かにそれは言えるじゃろうな。電子マネーが預かり金であったのに対して仮想通貨は売り上げ利益になる。仮想通貨が商品とされるからじゃ。しかし仮想通貨の発行は、本質的には何らモノやサービスといった価値を生産しておらん。じゃから世の中の富は一切増えておらんのじゃ。にも関わらずに仮想通貨を販売して利益を得ることを放任すれば、特定の個人や集団にだけ利益を与えることになる。おかげで仮想通貨としての本来の機能よりむしろ投機ゲームの対象商品となっておる。これは公共の利益に寄与すべき通貨の責務から逸脱しておる。こうした点には注意が必要じゃろう。

ところで仮想通貨を発行した場合は世の中のおカネの量が増える可能性が高い。というのも、電子マネーの発行と異なり、発行元が入手したおカネはすべて発行元の利益なので自由に使うことができるからじゃ(流動性が高い)。また仮想通貨はもともと仮想通貨を使った取引を行うことが前提じゃから、これも自由に使うことができる。しかも電子マネーが発行元に戻って消滅する仕組みになっておるのに対して、仮想通貨は一旦発行されると消滅することはない。じゃから仮想通貨によって世の中のおカネの量は増えるんじゃ。

その点では、仮想通貨は政府通貨に近い存在じゃ。政府通貨は政府が発行する通貨であり、貸し出しや預金の預かりをせずとも通貨が発行されるし、一旦発行されると基本的に消滅することはない。じゃから政府通貨を発行すれば世の中のおカネを増やすことができる。政府通貨が仮想通貨と違う点は、法定通貨として「政府通貨1円=現金1円」の関係が政府によって最初から法的に保証される点じゃな。

ところで、仮想通貨を発行しても世の中の預金の量は変わらない。預金は仮想通貨を買った人から仮想通貨の発行元に移動するだけじゃからのう。世の中の預金の量が増えるのはあくまでも市中銀行が貸し出しを行った場合(預金の信用創造)だけじゃ。

(ねこ)
うにゃ、ややこしいにゃ。もっとややこしいことに民間銀行が独自の仮想通貨を発行する話があるにゃ。民間銀行の仮想通貨とビットコインなどの元祖・仮想通貨は何が違うのかにゃ。

(じいちゃん)
民間銀行の仮想通貨はまだ実施されておらんのであくまで予測じゃが、どうやら銀行の仮想通貨は仮想通貨1単位=1円という交換レートになるらしいの。とすればこれは電子マネーと同じ「前払い式支払い手段」である可能性が高い。では電子マネーと何が違うかと言えば、送金の仕組みに仮想通貨と同じ「ブロックチェーン」技術を利用する点じゃ。これをもって民間銀行は銀行の仮想通貨を「仮想通貨」だと呼んでおる。しかし実態は電子マネー(前払い式支払い手段)じゃから、デジタルに弱い人から見ると実にややこしい存在じゃのう。



さて、バランスシートを考えてみよう。そもそも銀行は預金通貨の発行元じゃから、一般の企業が電子マネーを発行する場合と少々異なるじゃろう。例えばA)銀行の仮想通貨を発行する前、企業・家計が資産として1000円のおカネを保有しているとすれば、それに対する負債として銀行には1000円の預金が必ず存在する。これは企業・家計が銀行におカネを預けているような形になっている。そこでB)企業・家計が仮想通貨を要求すると、銀行が仮想通貨を発行して預金と仮想通貨を交換する形となる。つまり①企業・家計の保有する預金と銀行の負債である預金が消滅し、代わりに②銀行が仮想通貨1000円を発生して企業・家計に仮想通貨を渡すことになる。

これにより、銀行は負債としての預金の量が減って負債としての仮想通貨の量が増えることになる。負債の総額は変化しないが、銀行にとってはメリットがあるのじゃ。なぜなら預金に対して銀行は預金者に金利を支払わねばならない。現在の預金金利はほぼゼロじゃが、それでも巨額の預金があれば支払利息は馬鹿にならんじゃろう。一方で仮想通貨の保有者に対して金利を支払う必要はない。つまり銀行は預金が減って仮想通貨が増えるほど金利負担が軽くなって利益が出易くなるわけじゃ。

(ねこ)
なるほどにゃ~、もしかすると銀行は預金者に支払う金利を節約するために仮想通貨を推進したいのかも知れないにゃあ。

(じいちゃん)
ほっほっほ、そこらへんは何ともワカランのう。しかし仮想通貨を利用すればシステムの維持費が削減される分だけ手数料が安くなるから、それは銀行にとってだけじゃなくワシら一般人にとってもメリットになるじゃろう。

とまあ、今回は仮想通貨のバランスシートを、預金通貨、電子マネー、銀行の仮想通貨と比較してみたのじゃ。一口に「おかね」と言っても、バランスシート上も大きな違いがあることがお分かりいただけると思う。悪意のある連中に騙されんように、ワシらはおカネについて十分に理解する必要があるのじゃな。さて、次回は仮想通貨の課題とあるべき仮想通貨の姿について考えてみたいと思うのじゃ。

(本編サイトにも同時掲載)