2018年2月9日金曜日

仮想通貨・電子マネー・銀行預金の違い

2018.2.9

仮想通貨・電子マネー・預金通貨の違いについて、技術的な側面からではなく、発行と流通のしくみ(おかねとしての本質)から考えてみました。おかねの本質を考える上での一つのヒントにして頂ければと思います。

(ねこ)
ふにゃ~、最近は電子マネーやら仮想通貨やら種類が多すぎて、一体何がどう違うのかさっぱりわからないのにゃ。それらは「おカネ」といわれているけど、本当におカネなのかにゃあ。

(じいちゃん)
ほっほっほ、まったくややこしい世の中になってきたのう。しかしこれは「おカネとは何か?」を多くの国民が真剣に考える大きな機会になると思うのじゃ。経済にとっておカネは重要じゃから、ワシらは何を差し置いてもまずおカネについて十分に理解することが大切じゃ。

さて、厳密におカネと言えば、それは現金のことじゃな。つまり政府が発行する「硬貨」と日本銀行が発行する「日本銀行券」すなわち紙幣だけじゃ。ただしこれらは日本銀行の当座預金として存在することもできるため、「日銀当座預金」という通帳のようなものに記載されている額も現金になる。現金による決済(支払い)は法的に有効とされ、だれもそれを拒否することはできない、これを「強制通用力」という。こうしたおカネを「法定通貨(法貨)」と呼ぶんじゃ。厳密に言えば政府や日銀が発行するおカネ「現金」だけがおかねと言える。

(ねこ)
ふにゃ、民間銀行(市中銀行)の預金通帳に記載されている預金はおカネじゃないのかにゃ。

(じいちゃん)
もちろん、銀行(市中銀行)の預金も政府が現金に準じるおカネと認めておるからおカネと言って間違いない。しかし、預金はあくまで現金から派生して出来たおカネであって現金そのものではない。預金はあくまで銀行の存在によって保証されているため、銀行が潰れれば預金はすべて消滅する。とはいえ、それでは誰も銀行など信用しないので、保険によって1000万円まで保障される仕組みになっておるが、全額は保障されておらんのじゃよ。それでも預金は法貨に準じる信用があるとされており、狭い意味では「現金」と「銀行預金」だけがおかねじゃ。じゃから狭い意味では電子マネーも仮想通貨もおカネではない。

(ねこ)
ふ~ん、電子マネーも仮想通貨も狭い意味ではおカネではないのにゃ。現金・預金でない限り正確にはおカネではない。でも広い意味ではおカネなのかにゃ。

(じいちゃん)
左様じゃ、というのも法律で決められたおカネでなくとも、おカネと似たような機能を持ち、おカネと同様に利用できるものがあるなら、それは広い意味では「おかね」と言えるじゃろう。じゃから広い意味では電子マネーや仮想通貨もおカネと言えるんじゃ。ただし、同じおカネと言ってもその仕組み(システム)は銀行預金、電子マネー、仮想通貨では大きく異なっておる。だから社会や経済に与える影響もそれぞれに違っておる。ワシらはおカネを利用者の立場からしか見ないから同じに見えるが、内情はまったく違う。じゃからその仕組みを正しく理解し、批判したり評価したりできなければならんのじゃ。そうしなければ「騙され損」するリスクを負う事になる。

(ねこ)
うにゃあ、世の中は油断ならないにゃ。おカネを使って良からぬことを企む連中がわんさといるんだにゃ。良からぬ事といえば、仮想通貨みたいに勝手におカネを発行すると偽カネ作り(通貨偽造)で捕まらないのかにゃ。

(じいちゃん)
素朴に考えるなら誰しもそう思うじゃろう。しかし法的に信用があるおカネは現金と預金だけじゃ。じゃからあくまでも日本銀行券に似たデザインの偽物を作れば通貨偽造(偽カネ作り)になる。これらは作っただけでも社会を混乱させるので有罪じゃな。

しかし、法貨と似ていないオリジナルの紙幣を誰かが「これはおカネだ」といって発行しても通貨偽造(にせカネ作り)にはならないんじゃ。玩具メーカーがおもちゃのおカネを印刷するのと同じ。だれもそんなものは信用しないからじゃ。ただしその紙幣を使って誰かに損害を与えるのであれば詐欺罪になるじゃろう。現金や預金と絡めば出資法や資金決済法などに抵触する可能性がある。しかしいずれも偽カネ作りではないのじゃ。

(ねこ)
う~ん、どうもしっくり来ないにゃ。

(じいちゃん)
そもそもおカネとはなんじゃろう。仮に誰かが「おもちゃの紙幣」を発行して、これを買う人が居たとしても、それは「おもちゃの紙幣」という商品を買うだけの行為に過ぎないんじゃ。だからおもちゃの紙幣を印刷することは商品の生産であって、違法でもなんでもない。だから仮想通貨を作ってこれを誰かに売ったとしても違法ではない。

そして、もし「おもちゃの紙幣」を使って商品の売り買いに応じる人がいたとしても、それは違法ではない。たとえば大昔は「貝殻」がおカネとして使われていたらしい。貝殻そのものにはほとんど価値は無いが、それをおカネとして利用できる。「商品を交換する手段として貝殻を利用しよう」という互いの合意、信用があれば成り立つんじゃ。同じようにおもちゃの紙幣であっても互いの合意と信用があればおカネとして利用することができる。こうしておもちゃの紙幣は「おカネ」になる。

とはいえ、おもちゃの紙幣は簡単に偽造できてしまうから現代社会では信用されない。だからおもちゃの紙幣が現実におカネとして利用されることはあり得ないのじゃよ。しかし例えば仮想通貨であれば偽造はほぼ不可能じゃ。じゃからおカネそのものの信頼性は高い。あとは「商品を交換する手段として仮想通貨を利用しよう」という互いの合意、信用があればおカネとして成り立つんじゃ。

(ねこ)
う~ん、法貨としてのおカネと広い意味でのおカネが頭の中でごちゃまぜになって混乱しているにゃ。それをわけて考えなくちゃダメってことなんだにゃ。難しいにゃあ。

(じいちゃん)
左様じゃ。狭い意味での法定通貨であれば、それは何も考えることなく「おかね」じゃ。単純明快で誰でもわかる。じゃが広い意味でのおカネとは「おカネとしての機能」から考えて判断するから難しい。極端に言えば合意と信用があれば何でもおカネとして利用できる。ケチャップでもおカネとして利用できる。

(ねこ)
ところで、銀行預金、電子マネーと仮想通貨の違いはなにかにゃ。

(じいちゃん)
おお、前置きがえらい長くなってしまったの。まず銀行預金じゃが、これは市中銀行が信用創造によって作り出すおカネじゃ。すでに本サイトで何度も説明しておるが、世の中に流通している通貨の大部分は現金ではなく預金であり、これは銀行が発行したおカネなんじゃよ。発行の仕組みはこうじゃ。ある企業がおカネを借り入れたいと銀行に申し出ると、銀行は預金を発生して企業の預金口座に振り込む。つまり貸し出しの際に預金が発行されることになる。従って逆に言えば、返済の際に預金は消滅するのじゃ。企業が借金を返済する際、預金は銀行に戻されると同時に消滅することになる。この仕組みは電子マネーや仮想通貨とまったく異なる。そして銀行が貸し出しをすると世の中のおカネの量(預金の量)は増加する。

ところで、預金はすでに電子化されていて、ほとんどが電子的に取引されておる。ワシらは銀行振込みで給料を受け取ったり商品を購入したりしておるが、それは預金を電子的に受け取ったり払ったりすることで成り立っておる。その点においては電子的に取引ができる電子マネーや仮想通貨と違いはほとんどないのじゃ。もちろん電子取引の技術的な仕組みは大きく異なっておるが、今回の主旨から外れるので技術的な違いは省略する。今回はおカネとしての本質的な違いを考えるのじゃよ。

(ねこ)
電子的に取引される意味では預金も電子マネーと同じだにゃ。何が違うのかにゃ。

(じいちゃん)
電子マネーは発行の仕組みが銀行預金と大きく異なる。あくまでも新たにおカネを作り出すものではないのじゃ。電子マネーは法律的に「前払式支払い手段」であり、商品券と同様とされておる。ただし支払い手段として利用できる点はおかねに似ているから、広い意味ではおかねだと言えるじゃろう。発行の主体は銀行ではなく一般の企業が発行元になる。発行の仕組みはこうじゃ。誰かが電子マネーを買いたい(チャージしたい)と要求すると、電子マネーの発行元が現金・預金と引き換えに同額の電子マネーを発行して渡す(カードに書き込む等)。発行元がこのときに受け取った現預金は売り上げではなく預かり金じゃ。ここがポイントじゃよ。

売り上げ金だったら、このおカネは発行元の好き勝手にできるが、そうではないのじゃ。この電子マネーを使って誰かがお店(加盟店)から買い物をした後で、お店はお客から受け取った電子マネーを現預金に替える必要がある。電子マネーのままだとお店の経費や給料を仕入先や従業員などに支払うことはできないからな。じゃから発行元に電子マネーと現預金の交換を求めてくるんじゃ。その時のために預かったおカネを保管しておかねばならんのじゃよ。そしてお店が電子マネーと現預金を交換する際にお店から支払われる利用手数料が発行元の売り上げになるんじゃ。元に戻ってきた電子マネーは用済みになって消えることになる。

(ねこ)
うにゃ、電子マネーを発行するといっても、発行元は現金・預金を預かっているだけなんだにゃ。そういう意味じゃおカネは発行していないと言えるにゃ。

(じいちゃん)
そうじゃな、今のところ電子マネーはあくまでも消費者がお店から商品を買うときに使えるだけじゃ。お店は電子マネーをそのまま仕入先や従業員への支払いに使えない。電子マネーを発行しても、その分だけ預かり金として発行元に保管される預金が増えるだけじゃから、いくら電子マネーを発行しても自由に流通するおカネの量が増えることはないのじゃ。

(ねこ)
そうかにゃ、んじゃ仮想通貨はどうなのかにゃ。

(じいちゃん)
仮想通貨はさっきの話しに出てきた「おもちゃの紙幣」に近い存在じゃ。つまり仮想通貨の発行は商品の生産のようなものじゃよ。発行の仕組みは単にそれを作り出せば発行したことになるんじゃ。銀行預金のように誰かに貸し出す際に発生するとか、電子マネーのように誰かの現預金を預かることで発生するんじゃない。おもちゃの紙幣と同じで、単に仮想通貨を1000単位なら1000単位つくるだけ。ただし作っただけでは価格が何も決まらない。市場取引において「仮想通貨1000単位を10円で買います」という人がいると、取引が成立して仮想通貨1単位=0.01円と仮想通貨の価格が決まるんじゃ。だから仮想通貨の価格(=現金との交換レート)は市場原理によって常に変動する。

それに対して預金はそもそも法定通貨と同様だから現金と同じ価格なのは当たり前じゃな。預金1円=現金1円は当然なんじゃよ。また電子マネーはあくまで預かり金じゃから、電子マネー1単位=1円は当然なんじゃ。これが勝手に増えたり減ったりすると、預けている意味がないからのう。

(ねこ)
うにゃああ、仮想通貨は銀行預金や電子マネーとは似ても似つかないんだにゃ。なのに、なぜ「おカネ」と考えられているのかにゃ。

(じいちゃん)
さっきも貝殻のおカネで説明したとおりじゃ。つまり「仮想通貨はおカネである」と互いに合意してモノやサービスの売買に応じる人が居れば、それはおカネとして機能するんじゃ。仮に仮想通貨を現預金と交換しない前提の場合でも、その仮想通貨で売買に応じる人が居ればそれだけで通貨として機能する。とはいえ仮想通貨を商品の売買に利用する人はまだまだ限られておるから、お店などは電子マネーと同じように現預金との交換を前提として受け入れているのじゃ。そこで現預金との交換レートが重要になってくるわけじゃな。

しかし現預金に替えることを前提とする場合、仮想通貨にあまり急激な価格変動があると困ってしまう。確実にレートが上がり続ければ良いが、下がった場合は下手をすると赤字になってしまうからじゃ。その意味では仮想通貨は不安定な存在じゃな。しかし価格が安定してくれば、おカネとしても安定して利用可能になるじゃろう。そして電子マネーがあくまでも預かり金と引き換えに発行されるのに対して、仮想通貨は無制限に発行できるから、爆発的に世の中のおカネが増える可能性があるのじゃよ。

(ねこ)
仮想通貨を発行することは、おカネを発行することになるのかにゃ。

(じいちゃん)
その通りじゃ。仮想通貨が普及してくると世の中のおカネの量が爆発的に増える可能性がある。それはなぜじゃろうか。仮想通貨の発行段階での価値はゼロじゃ。これを誰かに売ると発行元は現預金を手に入れる。これは預かり金ではなく売り上げに該当するじゃろう。じゃから発行元はこの現預金を保管することなく自由に運用することができる。加えて、市場に出回った仮想通貨が取引に利用されるようになると、これは事実上おカネとして機能することになる。じゃから、仮想通貨の発行分だけ世の中のおカネが増えることになるんじゃ。

おまけに、もしある仮想通貨が非常に大きい信用力を持つようになるとどうなるか?その仮想通貨の発行元は仮想通貨を新たに発行するだけでモノやサービスを買うことができてしまうじゃろう。カネを発行しただけで何でも買える、つまり特定の個人(あるいは集団)が通貨発行益を私的に独占するようになる可能性もあるのじゃ。

もちろんそれは仮想通貨による取引が活発になり、仕入れや賃金の支払いまでもが仮想通貨で行われるようになった段階での話じゃ。今は仮想通貨の値上がり益を目論んだ仮想通貨そのものの転売が主流じゃから、発行元が丸儲けする異常な事態はあるものの、まだ社会全体に及ぼす実質的な影響はかなり小さいと言えるじゃろう。

(ねこ)
にゃるほど、今まではおカネと言えば「法定通貨」のことだったから、おカネを発行するのは日銀や市中銀行だけだったにゃ。でも今や仮想通貨みたいに「法定通貨とは無関係のおカネ」が出現して、ある意味では誰でもおカネを発行できる世の中になったんだにゃ。すると無制限におカネが増え続ける可能性もあるんだにゃ。これからどうなってしまうのかにゃ。

(じいちゃん)
ほっほっほ、これは笑い事では済まされないかも知れないのう。法定通貨を含めて通貨の大競争時代になるかもしれない。じゃが法定通貨は法治国家における契約や経済の基盤を担う制度じゃから、法定通貨が無意味になれば法律も無意味になる恐れがある。政府は私的な仮想通貨に負けない機能性の高い通貨システムを国民に提供し続ける義務があるじゃろう。

そのためにはベーシックインカムが重要になると考えておる。つまりベーシックインカムをシステムとして組み込んだ「政府仮想通貨」が必要とされる時代になると思うのじゃ。その構想についてはまた後日に述べたいと思うのじゃよ。

(ねこ)
そういえば、銀行が仮想通貨を計画していると聞くにゃ。銀行の仮想通貨は1単位=1円になるらしいけど、ビットコインのような仮想通貨とは違うのかにゃあ。

(じいちゃん)
これがまたややこしい話じゃな。銀行の仮想通貨はビットコイン等のいわゆる元祖・仮想通貨とは「技術的に同じ」じゃが「機能的には違う」のじゃよ。仮想通貨はブロックチェーンと呼ばれる技術を利用した送金システムによって成り立つ。銀行の仮想通貨もブロックチェーンの技術を利用した送金システムを利用する点で同じなので、銀行の仮想通貨も仮想通貨と呼ばれるのじゃ。

しかし銀行の仮想通貨の発行の仕方は元祖・仮想通貨とは異なり、おそらく電子マネーと同じ仕組みになるはずじゃ。まだ実際に運用されておらんのでハッキリは言えないが、電子マネーと同じ「前払式支払い手段」じゃと思う。なぜなら1単位=1円と固定されておるからじゃ。これは仮想通貨と現預金を等価交換することを前提にしておる。もし本来の意味での仮想通貨であれば交換レートは市場原理によって変動する。銀行の仮想通貨は仮想通貨の技術を利用した電子マネーの一種なんじゃ。じゃから銀行の仮想通貨を仮想通貨と呼ぶのは誤解を招くので止めたほうが良いと思う。銀行チェーン通貨とか、VRマネーとか、呼び方を変えたほうが良いじゃろう。

(ねこ)
うにゃあ、ややこしいにゃあ。ところで銀行は本当の意味での仮想通貨を発行しないのかにゃ。変動レートの仮想通貨を発行しないのかにゃ。

(じいちゃん)
ほっほっほ、それをやると銀行が丸儲けになるじゃろう。銀行の信用力は絶大じゃ。じゃから銀行が変動レートの仮想通貨を発行すれば高値で売れるじゃろうから、銀行は莫大なおカネ(現金)を手に入れることができる。あるいはそれは民間銀行が中央銀行に代わって通貨を発行することを意味する。そんなことがあって良いじゃろうか?それは政府も理解しておるはずじゃから、許可しないと思うのじゃ。

仮想通貨はまだ始まったばかりじゃから、ワシも仮想通貨をどう評価すべきか、あるいは仮想通貨をどのように改善すれば、特定の個人の利益ではなく広く公益に奉仕する制度に変える事が出来るか悩んでおる。多くの人は仮想通貨を使い勝手や技術の側面から考える。しかしワシは通貨制度の根本的な課題、つまりこれまで実現が難しかった、あるいは禁じられてきた「私的貨幣」とりわけ裏づけの一切無い私的貨幣をどのように位置づけるかの問題だと考えておる。

みんなも仮想通貨の登場を機会に、おカネのありかたについて良く考えて欲しいと思うのじゃよ。おカネは経済にとって、またワシらの生活にとって非常に重要な意味を持つから、これを十分に理解できなければ「搾取されて人生を終わる」ことにもなりかねんのじゃよ。

(本編サイトにも同時掲載)